Mar 29, 2007

第二回フィリピン恒久民衆法廷に参加して


3月21〜25日まで、オランダのハーグ市内にて第二回フィリピン恒久民衆法廷(Permanent Peoples' Tribunal)が行われました。私は陪審員による評決があった25日に参加してきました。貸切りバスに50人弱が乗り、ベルギーのブリュッセルからアントワープを経由し、ハーグへと向かいました。

陪審員計6人は、アロヨ政権のもとで引き起こされている人権侵害、特に超法規的殺害、行方不明、虐殺、拷問、その他の残虐行為は犯罪であり、ただちにアロヨ政府はこの行為をやめなければならないと、評決をだしました。

2001年アロヨ政権になってから2007年2月現在までで、フィリピン全土で起こっている殺害、行方不明による犠牲者は800人を越えました(人権団体カラパタン調べ)。特に反政府活動をしているとレッテルを貼られた学生、農民リーダー、労働者、人権活動家、宗教関係者(司祭、牧師)、教育関係者(教師、教授)、報道関係者などに対する殺害があとをたちません。正当な司法の範囲を越えたものです。マルコス政権時代にまして状況がひどくなる中、フィリピンの人びとは、国際社会に訴えるしかないと、市民団体(*1)を通して国際法の都市、ハーグへの民衆法廷を実現させるにいたりました。(*1)市民団体:HUSTISYA!、 SELDA 、BAYAN、Karapatan、Peace for Lifeなど。)

アロヨ大統領とフィリピンに深く関わるアメリカ合衆国ブッシュ大統領、そしてこの政権をサポートする他諸国はフィリピンにおける多大な人権侵害と経済的、文化的、社会的な侵害、そしてフィリピン国内の自決権と主権を十分に脅かしているとして,フィリピンの人びとは、この民衆法廷に申し立て、起訴しました。

私は、ハーグに行くまでのバスの中で、すでに21〜23日まで証言傍聴に参加してきたというベルギーの弁護士ヤン・フェルモンドさんから3日間の様子を伺いました。1980年、マルコス大統領が裁かれた第一回フィリピン恒久民衆法廷時よりも多くの証言がされ、フィリピン現地とはビデオカメラでつながれ、陪審員はフィリピンから直接、犠牲者やその家族たちから証言を聞く機会をえたとのことでした。

民衆法廷は拘束力、強制力はありませんが、道徳的な世論の声が十分に表される場で、国際市民のモラルが判断の基準です。国際世論の結果は、今後のロビーイング活動や、国際的な連帯活動に多いにいかされていくだろうと希望と期待がある民衆法廷だとフェルモンド弁護士は話されました。

評決はハーグ市内にあるカトリック教会で行われ、約300人(主催者発表)が集まりました。地元の人たちを含め、オランダに在住するフィリピン人、オランダ近隣諸国(ベルギー、ノルウェー)、アメリカ合衆国、カナダからの人びとが集まり、陪審員代表のフランソワ・ハウタルト(François Houtart)さんから読まれた13ページに及ぶ法廷証言のまとめと結果、そしてその評決に耳をかたむけました。

ハウタルトさんは、2002年の世界社会フォーラム(於:ポルト・アレグレ)でも活躍され、またカトリック神父でもあり、現在はベルギーのBelgium-based Centre Tricontinental (Cetri) の所長をされています。第一回フィリピン民衆法廷でも陪審をされたのは、ハウタルトさんと作家の小田実さんでした。小田さんは次回は「第三回目」の民衆法廷に参加するのではなく、フィリピンが自国の主権を勝ち取ったときの祝賀パーティーに参加したいと、最後の一言を述べられ、会場からは拍手が湧きました。

民衆法廷が開かれる約一ヶ月前(2007年2月)、国連人権理事会から特別報告者としてフィリップ・アルストンさんがフィリピンの人権侵害状況を調査するため、フィリピンを訪問していました。ここでも国際社会の目が入ったと言えましたが、それとはうらはらに、アルストンさん一行がフィリピンを発ったその数日後、殺された義父についてアルストンさんに証言した女性が、何者かによって殺されてしまう悲しい事件が起こりました。

人びとは、もうがまんできないところまできています。どれだけの人びとが殺されてしまうのでしょうか。何の罪もない、単に自分たちの権利と自由を求めて活動している人たちのどこに殺される理由などあるのでしょうか。

国際世論は恒久民衆法廷の場を通して、アロヨ政府の犯罪を強く非難しています。また、民衆法廷の評決は、国連、国際裁判所、ヨーロッパ議会、そして他諸外国へも伝えられる予定です。

今後はますます国際的な連帯活動、ロビーイングを強めていく必要性を感じると同時に、可能性の大きさを感じました。犠牲者のためにも、私たち海外にいる者ができることを少しでもやっていきたいと再び感じるとともに、会場の迫力と力強さに励まされ、ベルギーに帰ってきました。


*写真(左から6人陪審員:リリア・ソラノ(Lilia Solano)(コロンビア)、オイステイン・テヴェテル(Oystein Tveter)(ノルェー)、ティース・プラッケン(Ties Prakken)(オランダ)、フランソワ・ハウタルト(François Houtart)(ベルギー)、アイリーン・フェルナンデス(Irene Fernandez)(マレーシア)、小田実(日本)、ジアンニ・トグノニ(Gianni Tognoni)(恒久民衆法廷事務局長))